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脈うつとき

個展

アートラボアキバ 

2013

1100×6000/mm​

When pulsing

Solo exhibition

Art Lab AKIBA

2013

1100×6000/mm​

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鏡のような水面があった
その 凪が 脈うつとき
私の鼓動も 言葉も まとう布も
その さざなみよりも僅かな
表面張力に反応し 語りだす
色彩は混じりはじめ 光は粒へ向かう
音の無い ゆるやかな脈のなかで
まさに 宇宙と 対話をしている

           山 本 愛 子

 



共振・発振

絵画では制作の進行に伴い、絵の具は徐々に加算され支持体は重くなっていく。彫塑の分野では塑造が同様であるが、彫刻では完成に近付くにつれ素材は削りとられ重量は減っていく。ところが染めは増えもしないし減りもしない。ただ制作の過程が布に記憶されていく。
山本愛子の制作は微かな揺らぎを感じとることから始まる。素材の小さな声に耳を澄ます。布はスタティックな常態を求められているのではない。衣装になれば体の動きとともに形は絶え間なく変化するし、また波立つことで見えない風、息,振動の存在を示してくれる。布自体が受信装置であるかも知れない。また素材の違いもある。植物系繊維はやはり受動的であるが、絹は素材自体がまるで一個の生命のように振る舞うそうだ。
以上は山本愛子が教えてくれたことの一部である。私の知らなかった世界が開けたような気がした。彼女自身が感受性の糸で織り上げられた繊細な帆の様に、微かな風も逃さない。常にメモし、言葉で思考し、感受したことを一旦対象化させることで、彼女にとっての謎の領域が少しずつ浮かび上がってくる。そして独自のやり方で探求が始まる。山本には素数への興味など、数学的真理への強い志向があり、そこが個の経験のみに依拠している神秘愛好家とは決定的に異なっている。つまり彼女にとって真理とは常にアプリオリなものでなくてはならないのだ。
パッシブなだけではない。山本愛子の作品は力強く発振する。若く未整理の部分も抱えてはいるだろうが、十分自覚的で、スリリングで、可能性に満ちている。

                                                             本展ディレクター 地場賢太郎


 

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